
内容紹介
二〇〇四年八月一日、周の恋人は駅から彼の部屋へ向かう道で事故に遭い、そのまま帰らなかった。その日は満月の翌日、欠けはじめの月がのぼる十六夜だった。
それから周は、日を暦ではなく月で数えるようになる。旧暦のカレンダーに丸をつけ、曇りの予報に一喜一憂し、月を見ずに済む場所――窓のない写真部の暗室――にこもって、ひと月ぶんの夜をやり過ごす。
秋、公園で一匹の黒猫が部屋までついてくる。名前は付けない。付けようとすると、どうしても口に出せない名前がひとつあるからだ。
中学からの友人の唐沢、大柄で不器用な健吾、健吾の妹の真奈美。三人は代わりばんこに、周を飯や酒や、駅までの遠回りに誘い続ける。周は「暗室」と「また今度」で断る。それでも月は、約二十九日半ごとにめぐってくる。
第一部「君を忘れない」は周の目で、第二部「真奈美」は、その同じ日々を、亡くなった人に勝てない場所から見ていた真奈美の目で語り直す。立待、居待、寝待、更待、有明、晦、朔――十六夜のあとの月の名前は、どれも「待つ」ことを教えてくれる。
すぐに立ち直れる人は出てこない。大げさな奇跡も起きない。忘れないまま、少しだけ顔を上げるまでの、一年あまり。折りたたみ携帯と固定電話の時代の、静かな喪失と再生の物語です。
※本書はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは関係ありません。
目次
- 第一部 君を忘れない(周)
- 間章 いざよう
- 第二部 真奈美(立待月・居待月・寝待月・更待月・有明・晦)
- 間章 かぞえる
- 朔
こんな方に
- 大切な人を亡くしたあとの時間を、静かに描いた小説を読みたい方
- 月の満ち欠けや、月の名前に惹かれる方
- 派手な展開より、日々の積み重ねで変わっていく物語が好きな方
著者
蒼井冬夏。静かな怪談と、喪失と再生の物語を書いています。

